ひらやすみ

家の隣の隣が釣り堀だった。

小さい頃は母が兄と自分を連れていろんなところに連れていってくれたが、母が疲れている時はどこかに連れて行けといっても聞いてくれなかったので釣り堀に行った。近所すぎるので母も心配せずに送りだしたのだと思う。

 

まだ幼稚園とかだった自分と小学校低学年だった兄に釣り堀のおっちゃんは色々教えてくれた。

 

1時間で2人で500円とかだったかな?小銭だけ握って重い引き戸を開けていた気がする。

 

引き戸を開けるとどでかい長方形の堀があってそれを囲う形で椅子が何個もおいてある。覗くと水の中は真っ暗で、本当にこの中に魚がいるのか不思議だったが、常連のおっさんたちがエサに魚が食いついたであろうタイミングで竿を引っ張っていたので、大人がこんな本気ってことはまじでいるんだなと思ったのを覚えている。

 

そのでかい長方形の堀の横には三つの少し小さい正方形の堀があって、釣り堀のおっちゃんは時々その中から生きのいいのをでかい堀の方に入れたりしていた。

 

番台でお金を渡すとでっかいずんだもちのような緑色の粘土のような餌がもらえた。竿は壁に掛かってあるやつから好きなのを選べた。

ちょっと離れたところには常連のおっさんのマイ釣り竿がずらっと並んであって、ほう、お前らええ感じで老後楽しんでるやん?って感じだった。

 

餌と竿を持って好きな所に座る。

 

ずんだ粘土をちょっとだけちぎって、魚の一口サイズにして、針につけ沈める。

 

ちょんちょんってあたりがきたら竿たてるんやで。

 

幼稚園児に辛抱なんてできるわけがない。

沈めてはすぐに引き上げ、また沈めて、待てずにまた引き上げる。そんなことをするもんだから、沈めて静かに待っている兄に釣果で勝てた日はなかった。

 

その釣り堀は釣った魚の大きさや数で点数をおっちゃんがつけて紙に書き、その点数分を景品と交換できる仕組みになっていた。

3点がウエハースのチョコ。

6点がコアラのマーチ

みたいな感じだった。

景品のガラスのショーケースの中はとても魅力的だった。

一番上の100点の所に、ビンゴをするときに使う何番!ってガラガラ回すあれが置いてあった。

当時の兄と自分は、いつかあれを手に入れてやるのだ!と意気込んでいた。

まじでいらない。

 

そんな釣り堀も、自分が中学に上がる前くらいにおっちゃんが亡くなってからは潰れてしまった。

結局すぐに竿を引き上げる癖は最後まで治らなかった。

 

そんなこんなで釣り堀が結構好きなのだ。

 

BECKという映画が好きなのだが、そこに出てくる水嶋ヒロ演じる南竜介が釣り堀で住み込みのバイトをしているのもこの映画が好きな理由の一つである。

 

そんなこんなで、ひらやすみという漫画を読んだ。

この主人公も釣り堀でバイトしているのだ。

もうそりゃ読んじゃうよね。

 

今やっているバイトが、希望を出してもなかなかシフトを入れてくれないので、掛け持ちで何か新しいバイトを始めようと思うが、いかんせんやりたいバイトが釣り堀以外見当たらない。

求人を探してもどこも東京の遠い所や、海沿いのもうほぼ海釣りやんみたいなところばっかでなかなかない。ギリギリ近くにある釣り堀も、家族経営で賄えるのか求人を出しているところはなかった。

座れて時給高い仕事なんかないかなー。あ、塾講師やるかと思い面接へ。

面接に行くまでに自分が冬にリゾートバイトで一ヶ月近くアルバイトをすることから、毎週必ずシフトに入らなければならない塾講という職種が無理なことに気づく。あ、ダメやん。

んまけどもし塾講の方受かったら、リゾバ諦めて、貯めたお金でスノボ行くことにしよう。

塾について案内されたところで待っていると、2、3歳年上の女の人が入ってきた。

終始目の合わない人だったが、不思議と印象が悪いわけではなくて、考えながら話しているんだなというのがわかった。

テストを受けた後、なぜ塾講師を希望したのかや、入れる日程などを聞かれた。

面接の時には毎回、鏡を見て話しているような感覚になる。

そして話している間に、自分はここで働けないし働いてはいけないと思った。

友達に、教員を目指している人が何人かいて、その中にはもう母校に非常勤として働いている者もいるが、そんなやつを間近で見ていると、自分のようなこんなにも真剣でないやつが教育に携わって言い訳がないと思った。

 

結果は一週間以内にお電話でお伝えします。もし連絡がない場合は不採用と思って下さい。

こう言われたらもう不採用なのだ。

大体はその場で合否が出ていると知っている。

案の定連絡は来なかった。

 

非常勤で働いているその友達に、落ちたことを伝えると、当たり前だろと言われた。

お前のようなものが受かるはずないと半分本気で言われたことにほんの少しだけムカつきもしたが、仕事に誇りを持っているがゆえとわかった。そいつが大事にしているものを踏み躙る可能性があったことにその時に気づいて慄いて言葉が出なかった。生半可に担わなくてよかった。そいつが100%正しい。

 

神様はよく見ているものだ。

 

あーどっかに釣り堀ねーかなあーーーー。